今回は4thアルバムの「風立ちぬ」です。

風立ちぬ

風立ちぬ

1〜5曲目は大瀧詠一さんのアルバム「A LONG VACATION」の曲と対になっているとのこと。

1 冬の妖精 作詞:松本隆 作曲:大瀧詠一 編曲:多羅尾伴内
瀟洒アコースティックギターでスタート。彼氏とのデートの待ち合わせでしょうか。バラは普通初夏から秋にかけて咲く花とのこと。「珍しく冬に咲いた白いバラをあなたにあげるわ」という高揚した恋心(女性から男性へお花をプレゼントすることってあんまりないですよね。「高揚」という点では「木枯らしの街も寒くないはずね」や自分を「冬の妖精」に例えている部分もそうか)を楽しげなサウンドで表現しています。「君は天然色」がモチーフとのこと。

2 ガラスの入江 作詞:松本隆 作曲:大瀧詠一 編曲:多羅尾伴内
彼氏との過ぎ去った夏の思い出を切なく歌い上げる聖子さん。声が過労のせいかかすれ気味だが、それが偶然にも失恋の切なさや寂しさを引き立てています。それにしてもなぜに「ガラスの入江」なんでしょうか。「まだ思い出は鮮明にガラスの向こう側の景色のように見えているが、もうガラスの向こう側には行くことが出来ない。」ということでしょうか。「雨のウェンズデイ」がモチーフとのこと。

3 一千一秒物語 作詞:松本隆 作曲:大瀧詠一 編曲:多羅尾伴内
「ガラスの入江」のウエットな歌声から一転、聖子さんの透き通るようなクリスタルクリアな歌声&大瀧さんのナイアガラサウンドの絶妙なコンビネーションが炸裂する名曲。コーラスもキラキラした世界観に彩りをプラスし、なんとも幸せ感溢れる愛らしい作品。「もう少しここに立っていたい」という詞が出てきますが、私もこの作品の世界観にいつまでも浸っていたいです。「恋するカレン」がモチーフとのこと。

4 いちご畑でつかまえて 作詞:松本隆 作曲:大瀧詠一 編曲:多羅尾伴内
プロアマに限らず、歌手なり演奏家って歌詞なり譜面の内容を自分の内面で消化し、理解した上で歌ったり演奏するものだと思うのですが、本作は不思議な世界観で歌詞の内容を理解することも容易ではなく(「ディズニー映画に似た夜明け」って一体何ですか?)、歌うことそのものがものすごく難しい作品(とにかく音が取りづらいしリズムが奇怪)。また「くしゅん!」とくしゃみをさせてみたり、もはや大瀧さん聖子さんを使ってやりたい放題ですが、これを狙いどおりファンタジックかつ可愛らしく仕上げてしまう聖子さんはやっぱりただ者ではありません。「ヴィダン、ヴィダン、ヴィドゥビドゥビダン」のコーラス、このあたりはニール・セダカの「悲しき慕情」でしょうか?モチーフは「FUN×4」とのこと。

5 風立ちぬ 作詞:松本隆 作曲:大瀧詠一 編曲:多羅尾伴内 ストリングスアレンジ:井上鑑
一聴すると失恋の歌かと思いきや、恋人との永遠の別れを感じさせる一曲。松本さんは堀辰雄の「風立ちぬ」(富士見高原(長野県)のサナトリウムを舞台に、主人公である「私」と不治の病である結核にかかった婚約者の節子との愛と別れ)からエッセンスを取っていると思われ。
「風のインクでしたためています」=もう実際の手紙を書くことが出来ない。
「振り向けば色づく草原 一人で生きていけそうね」=草原に向かって一人で歩いていくの?
「心配はしないでほしい」=普通失恋でもって別れた相手を心配したりはしない。
「涙顔見せたくなくて」や「性格は明るいはずよ」も死が迫っているが決して弱音を吐かなかった節子を表現したみたいです。
もしかしたら直前の妹さんの死去(小さい頃から心臓が悪かったそうです)も下敷きにしてこの詞を書かれたのかも知れません。 ミュージックは大瀧さんの持ち味である分厚いナイアガラサウンド炸裂。井上さんの秋の高原に吹き抜ける風を感じさせるようなストリングスアレンジも聴きどころ。ライブだと尋常じゃない感情込めた歌唱で、こっちの胸が苦しくなって本当に泣きそうになります。本録音のようにさらりと歌ってくれた方がいいかも。モチーフは「カナリア諸島にて」とのこと。

6 流星ナイト 作詞:松本隆 作曲:財津和夫 編曲:鈴木茂
星が流れるようなバックミュージック。夢の中で「好きだよ」とか「信号で肩を抱かれて歩き出した」とか片思いの妄想がかったような歌詞(starryには「星が流れる」の他に「夢想的な」という意味あり)。聖子さんは高音を出すのがしんどそうで聴いていてつらいです。

7 黄昏はオレンジ・ライム 作詞:松本隆 作曲・編曲:鈴木茂
楽しみだった彼氏とのデートをすっぽかされて傷つき、都合の良い女扱いされていることにもう疲れてしまった女性。「他の人探してね」と言ってもまだふっきれておらず、まだ彼のことが忘れられない・・・といった感じの未練を残したような聖子さんの歌唱です。悲しげな黄昏を感じさせる鈴木さんのアレンジ(特に夕暮れと寂しさがない交ぜになったような冒頭のホルンと間奏のサックスが出色)がお見事です。

8 白いパラソル 作詞:松本隆 作曲:財津和夫 編曲:大村雅朗
デートに誘われた女の子が、態度のはっきりしない男性に「私のこと好きなのか教えて?」と甘えた感じでお願いしているとても可愛らしい曲(バックで流れるボボボボ・・・というベース音?がとても印象的)。「心は砂時計よ」はだんだんと好きな気持ちが(砂時計の砂が下の方にどんどん落ちていくように)大きくなっていくということでしょうか。「風を切るディンギーでさらってもいいのよ」や「涙を糸でつなげば真珠の首飾り」も楽しげに冗談を言っているようであんまり深刻には聞こえません。聖子フリークの間では本作品にアレンジ違いバージョン(http://www.youtube.com/watch?v=NXuuvyFEk7I)が存在することは有名な話ですが、アレンジが可愛らしい作品の世界観に合ってないというか、ちょっと大仰だと思います(しかし歌唱はアレンジ違いバージョンが上だったりする)。

9 雨のリゾート 作詞:松本隆 作曲:杉真理 編曲:鈴木茂
「せっかくの彼氏とのドライブデートなのに雨がざあざあ降りでもう台無し!」という気持ちが伝わってくる、聖子さんのすねたような歌い方が素晴らしい。雨粒が落ちて跳ねている様子を表現したようなキーボード(特に「もうワイパーもすねるほど」のトゥルルンという音)も印象に残ります。それにしても無機物であるはずの「ワイパーがすねる」という表現がとってもうまいと思いました。

10 December Morning 作詞:松本隆 作曲:財津和夫 編曲:鈴木茂
個性的な曲が多かった本アルバムの中では正統派というか、アレンジも抑えめでじっくりと聖子さんの歌声を聴かせる曲。丁寧な歌唱のせいか松本さんの詞の世界が生き生きと浮かび上がります。「ああ、このアルバムもこれで終わりか・・・」という感じがする、聖子さんのアルバムでは恒例の締めの一曲です。